落雁

まず、シートを濡らし続けているこの頭部の出血。
無理矢理動かした腕で頭を探った。

吹っ飛ばされて着地(というより落下)したときに切ってしまったのかもしれない。
いつかの目の上を切った時も、傷の割には大量に血が出た。それと同じなのだろう。

指でまさぐっていると、脳天より少し右側のところにぬめりがあった。
ここが切れてしまったんだな。
傷口を投げ込まれたタオルで強く押し付けた。
どういう訳かあまり痛くはない。

あとは、謎の全身の軋み。
交通事故なんてやったことないから、今の状況が重症なのかそうでないのかも分からない。

あの剛速球の車に衝突して生きていることが既に奇跡なんだけど、痛いもんは痛い。
骨折はしてないと思う。

頭を押さえ付けている腕とは反対側の腕が使えるか試してみる。
よし、ゆっくりだけど持ち上がる。指もグーパーできた。少し痛みがある。
みしみししている気がするけど、時間がたったら治りそう。

足を動かしてみる。
びしりと鋭い痛みが体に真っ直ぐ走った。
体を捻って見るけど、やっぱり思うように動かず、今まで感じたことがないような痛みが走る。あ、こんなとこ痛くなるんだ、って。
これっていわゆる全身打撲かな。
歩くのは無理そう。

改めて、絶望的。
ため息をつきそうになる。

だけどどんどん冷静になっていく。
このままあたし、殺される?
いや、そんなすぐ殺す必要性は相手にもないだろうし、デメリットは大きい。
じゃあその間、あたしは何ができるか。

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