落雁
「…弥刀ちゃん」
蛇みたいな冷たさが、どんどんいつもの司に戻っていく。
だけど銃の手は引っ込まない。
なにを、なにを言えばいいんだ。
このままだと、樹は司に殺される。
司は銃を持っているんだ。樹を殺したら、司が殺人犯になっちゃう。
ああでも、今更始まったことじゃないんだっけ。司は京極家の当主で、こんなことこれからいっぱいあって、あたしはこれを受け入れないといけないわけであって、
「ぎゅってしてよ」
全然思ってもない言葉が口から出た。
一瞬自分でも何言ってるか分からなくて、涙が引いた。
「…なにしてんだよ、はやくぎゅってしてよ…」
だけど言葉は止まらない。まるで、本音みたいな。
言葉と一緒に涙もまた出てくる。
なんだ、これ。恥ずかしい。
司が溜息をついた。うわ、更に恥ずかしい。
銃が黒いジャケットに消えていく。
「もー、なんでこういう時にそういうこと言うかな」
司は笑っていた。
そして、上体を起こされる。
甘い匂いだった。
恥ずかしいのに涙が止まらない。