落雁

無意識の内に司にしがみついてしまう。
本当に子供みたいだ。変なプライドから顔が熱くなる。

「つ、かさ」
「なあに弥刀ちゃん」

あたしの体を支えてくれている司の腕が、今までに感じたことがないくらい、力強かった。

「…なんでそんなぼろぼろなの」

司が困ったように笑う。

「…轢かれた」

は? の司の声はあたしの遠くなっていく意識でかろうじて聞こえた。

弥刀ちゃん、弥刀ちゃんとあたしを呼ぶ声がするけど、あたしは声が出せなかった。
どんどん意識が遠くなっていく。異常な眠気。

首ががくりと落ちる。
視界がぼやぼやしてきて、司が黒っぽい物体にしか見えなくなってきた。

遠くなりゆく意識の中で、はっきり聞こえた。

「…弥刀ちゃん、殺さなければいいんだよね」

握っていた手がするりと逃げていく。

寝るな、あたし。司がなにをしでかすか、見ていないと、いけないのに、…


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