落雁
「司、は」
「司は大した怪我なしだったんだけど、家に帰って相当辰巳さんに叱られてねぇ。ほらあんた、骨折してるじゃない。それで辰巳さん怒っちゃったの。まぁ、入院するほどじゃあないわ」
母さんは面白そうに笑った。
入院するほどじゃあないって、そんなに大丈夫でもないような気が…。
「まぁ、何にせよまずは自分の心配をしなさい。あんたは左腿の骨折だけじゃないのよ。1週間は学校行けないからね」
「えぇ?! 」
「当たり前でしょ、そんなんで行くつもりだったの?」
反撃しようとした時に、ドアが開けられる音がした。
「父さん」
「よぅ弥刀、調子はどうだ?」
母さんがもう1つ椅子を出して、父さんにも座らせる。
あたしは左足の指先を動かしてみた。
「あんまり痛くない」
「そーかそーか。相変わらず頑丈だな。そりゃ良かった」
豪快に笑い、父さんは腰掛けた。
「…司はどうするの」
あたしはいきなり核心に迫った。
早く、早く聞きたくて仕方が無い。
司は次期当主として、京極家に居られるのだろうか。
あたしの余裕の無い顔を見てか、父さんはにやりと笑う。
「おめぇはほんとに、司が好きなんだなぁ」
「なっ」
そう言って笑われると、つい顔が熱くなる。
子供扱いされたみたいだ。
「ば、馬鹿にしないでよ…」
楽しそうに笑う父さんから目を逸らす。
恥ずかしいのは、事実だからだ。
あたしは引き戻れないところまで来ている。
「優しい弥刀と会わせたら、司も変わってくれるだろうと思っていたが、まさかお互いにこんな影響を与えるとは思わんかったぜ。俺はお前は死ぬまで当主を目指して、女としての人生を捨てるのかと思っとった。それが、心配だった。だけどなぁ、ここまで、変わってくれるなんて」
頬がどんどん熱くなってくる。
ああああ、小っ恥ずかしい。そんなことを考えていたなんて。