落雁
盃と落雁
□ □ □
「痛くない?」
「…うん」
ガラリと玄関の引き戸を開ける司。
「なに、照れてるの? 弥刀ちゃん」
司は靴を脱ぐ。
なにが、照れてるの? だ。
あたしは現在、司の腕に抱き上げられている訳で。
恥ずかしくないわけないだろう、こんな状況。
「…だから、自分で歩けるって言ったじゃん」
「弥刀ちゃん、照れなくていいんだよ。松葉杖うまく使えなくて派手に横転してたくせに」
「照れてない!!し、転んでない! 」
司より目線が高いのが変な感じだ。
司の左腕に座るみたいな形で持ち上げられていて、自分の体を支えるにはしがみつかなければならない。大変恥ずかしい。
「弥刀ちゃんは幼稚園児みたいだね」
「はぁ?! 殴る!!」
「ちょっやめて」
司があたしの部屋のふすまを開ける。
甚三が敷いておいてくれた布団にあたしは寝かされた。
「ごめんね弥刀ちゃん」
「なにが? 」
あたしは寝返りをうって、枕元に座る司を見る。
「僕のせいでこんな怪我しちゃって」
司は包帯が巻いてあるあたしの頭を軽く撫でた。
いつになくしおらしい顔で、こちらが不安になる。
「…べつに、司のせいじゃないし」
温かい手のひらがあたしの頬を撫でる。