落雁



□ □ □



「らくがん? 」

司は首をかしげた。

落雁。
砂糖で固めた干菓子。

「ウチは代々、盃交わす時にこの落雁っつー菓子を下っ端に遣るんだ」

江戸から細々と続いてる和菓子屋で作らせた、白菊。和菓子屋も代々変わってねぇ。
甚三は落雁を丁寧に漆器に乗せた。

「雁って鳥を知ってるか」

高ぇ空で綺麗な列つくる鳥なんだがな、地上に降りてくる時にそれはそれは美しく降りるんだ。それを落雁とも、言う。

「京極も雁のような統率のとれた組織になるといい、っつー初代の粋な計らいでな」

ふぅん。司は並べられた白菊を眺めながら言った。



息ができないくらい重苦しい空気。
緊張で空気が張り詰めている。殺気かとも思える。

袴を身につけた司はこの空気に臆することなく、むしろ周りが臆するくらいの殺気で、父から受け取った酒を口に付けた。

あたしの目に焼き付く。あたしが人生をかけて欲しかった盃。

あたしでは京極を守れない。当主になれない。

だから、司を選んだんだ。あたしは間違えてない。

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