落雁
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「らくがん? 」
司は首をかしげた。
落雁。
砂糖で固めた干菓子。
「ウチは代々、盃交わす時にこの落雁っつー菓子を下っ端に遣るんだ」
江戸から細々と続いてる和菓子屋で作らせた、白菊。和菓子屋も代々変わってねぇ。
甚三は落雁を丁寧に漆器に乗せた。
「雁って鳥を知ってるか」
高ぇ空で綺麗な列つくる鳥なんだがな、地上に降りてくる時にそれはそれは美しく降りるんだ。それを落雁とも、言う。
「京極も雁のような統率のとれた組織になるといい、っつー初代の粋な計らいでな」
ふぅん。司は並べられた白菊を眺めながら言った。
息ができないくらい重苦しい空気。
緊張で空気が張り詰めている。殺気かとも思える。
袴を身につけた司はこの空気に臆することなく、むしろ周りが臆するくらいの殺気で、父から受け取った酒を口に付けた。
あたしの目に焼き付く。あたしが人生をかけて欲しかった盃。
あたしでは京極を守れない。当主になれない。
だから、司を選んだんだ。あたしは間違えてない。