落雁
「悔しいんでしょ」
夜。
盃を交わし終わって、司が正式に京極司になった夜、あたしと司は着物と袴のままで布団に潜り込んだ。
「なにが」
「僕が盃交わしたこと。弥刀ちゃん、当主になりたかったもんね」
「ばかにしてんの」
あたしは司を睨んだ。
司はあたしを宥めるみたいに、あたしの髪を留めているピンや簪を抜いていく。
「僕は弥刀ちゃんから当主の座を奪って、弥刀ちゃんも奪った。…でも、絶対に後悔させないよ」
「…わかってるよ」
司の手のひらに頬をすり寄せた。こいつの手のひらは温かいのであたしはこれが好きだ。
「司があたしよりも肉体的にも精神的にも強いのは知ってるし、京極の跡継ぎは司しかいないと思ってるけど、」
「ちょっといじけたい気分? 」
「…うーん、…うん、まあ。」
あたしの今までを、ぜんぶ司にかっ攫われた気分なんだ。わかってるのに。
「当主になりたかったなぁ…」
すっかり傷が治った頭を司が撫でる。
「僕が京極も弥刀ちゃんも、守ってあげるから」
子供をあやすみたいに撫でられたら、もう反抗はできない。