落雁
「あとは、母さんか」
「あぁん賀奈子ちゃんはゆっくりさせてあげてぇー…」
その言葉を聞き流して、あたしは立ち上がって父の自室を後にした。
まったく、両親揃って生活習慣病の塊なんだから困った。
平日の夜くらいは早く寝て起きてもばちは当たんないだろう。
ある部屋の襖の前で携帯をいじっている、やけに露出度の高い服を来た女があたしに気付く。
「あ、弥刀嬢」
今日も相変わらず彼女、雪姉さんの爪は魔女並に長く、ぎらぎらしていた。
「おはよう、雪姉さん」
「賀奈子はまだ寝てるよ」
その言葉に溜め息をついた。
母さんはこの京極家で1番寝起きが悪い。
起きない場合が大抵だ。
何と言ったって、彼女は元“夜の蝶”なのだから。
雪姉さんは一応母さんの1番の付き人だけど、2人は年齢が近いと言う事もあり、友達のようだ。
それに、雪姉さんにはそれほど母への忠誠心はない。
あたしは襖を開けた。
「母さん?」
落ち着いた和室にはおよそ似合わないまっピンクの布団。
そこに母は猫のように丸まっていた。
「んー?みと…」
篭った色っぽい声が布団の中から聞こえた。
だが、その団子は動こうとはしなかった。
「母さん、もう朝だよ。昨日何時に寝たの」
「4時…」
呆れてしまった。これだから夜型人間は。
「弥刀嬢、無理なんじゃない??賀奈子にとっては今さっき寝たばかりなんだし」
あたしは溜め息を溢さずにはいられなかった。
「みとー、あたしを癒して」
「あのね、母さん。あたしは今から学校なの」
「なんであんたはそんなに忙しいのよ」
ひょこりと布団から顔が見えた。目はほとんど開かれていない。