落雁
本気でどうしよう。
でも、ここまで来て果物まで買っておいて、帰るってのは腰抜けすぎる。
神谷と手書きで書かれた、表札のようなプレートのようなものを見ては目を逸らし見ては目を逸らし、というのを繰り返している。
ただ、どうしよう。全然風邪とかじゃなかったら。
いやでも、もしも風邪だったら。それはあたし、あまりにも薄情じゃないか。
いい。見舞いの果物だけ渡して帰ればいい話じゃないか。
そしてあたしは勢いでチャイムを鳴らしてしまった。
ピンポーン、とどこにでも聞いたことがあるような、無機質なチャイムの音がする。
お母様が出るのかもしれない。
変な顔してないか。身形は変じゃないだろうか。
だけど数分待っても誰も出なかった。
留守かよ…!!!!
あたしは心底自分が恥ずかしくなった。
こんなものまで買って、心配して損をした。結局出歩いてるんじゃないか。
後ろでくっくっくっくと笑い声がした。
「?!」
勢いよく振り返ると、しゃがみ込んで肩を震わせている神谷。
あたしの顔は一瞬の内に赤くなった。
「か、かかか神谷…!!!!!」
神谷はまだ笑い続けている。