落雁
「いいいいつからそこに居た!!!!」
「ぜんぶみてた」
更に顔が熱くなったのが分かる。
「どうやって!!!」
「いや、きみが歩いてたから後ろをつけてた。だって全然、気付かないんだもん」
くくくと神谷は笑い続けている。
あたしの顔はどんどん赤くなっていった。
神谷は立ち上がる。
「…で、どうしたの」
「お前が学校を休むから、風邪でも引いてるんじゃないかと思って、来たんだ…!!!」
冷たい手で、あたしは自分の頬を挟んだ。
顔の熱を手が奪ってくれる。
神谷はちょっと考え込んで、笑顔で応えた。
「うん、せいかーい」
「え」
神谷の顔を見た。
いつもと変わらない。
「それでここまで来たの?」
「いや…そうだけど、お前大丈夫なのか?」
「さっき病院行ってた」
神谷が私服だという事に気付く。
随分雰囲気が違って見えた。あたしと同い年には到底見えない。
「ま、いいや。入ったら」
神谷がドアにポケットから取り出した鍵を差し込む。
「家族の人は?」
「居ないよ」
ガチャリとドアを開ける。
部屋から神谷の匂いがした。