落雁
「居ない…?」
「僕、一人暮らし」
「そうなの?!」
ぐい、と部屋に押し込まれた。部屋が真っ暗で何も見えない。
「ちょ、あたしは帰るつもりだったんだけど」
「これなに?」
あたしの持っていた袋を取り上げる神谷。
中を勝手に物色する。
「りんご」
「見舞いに、と思って…」
神谷は顔の横に林檎を並べて、笑顔で言った。
「僕(病人)に包丁持たせるの?」
うつしたくせに?
神谷は優しく呟いた。
あたしが苦笑すると、神谷は承諾したと思ったのか、電気を点けた。
「何も言ってない」
「心優しいみとちゃんならきっと僕の看病もしてくれるはず。だって?誰がうつしたんだっけ」
「…」
それもこれも、お前が原因だろうと声を大にして叫びたかった。
いつまでそうしていても仕方がないから、あたしは靴を脱いだ。
「いつから一人暮らしなんだ?」
「んー、どうだろう」
玄関から通じている廊下を歩いて、神谷はドアを開けた。
リビングのようなところだった。
片付いているのかいないのか分からない部屋で、所々散らかっているので生活感はある。
ソファの背凭れに服がかかっていた。
ローテーブルにはプリントみたいな紙がたくさんと、その正面にテレビ。
その他目を引くものはなかった。まさにシンプル。
「あー」
神谷はリビングに入った途端、そのソファに倒れ込んだ。