落雁
「神谷、そこで寝るな。悪化するぞ」
「もう動きたくないし」
「…こどもか」
「…そうだよ」
適当にレジ袋を床に置いて、神谷の顔を覗き込んだ。
首筋に汗が流れている。
あれ、あたしが思ってたより重症かもしれない。
「病院で薬貰ってるんでしょ、どこ?」
「あっち」
神谷が指を指した方に歩く。
キッチンの近くのテーブルに、小さいレジ袋が置いてあった。
それを出してみると、明細書と薬があった。
「ねぇ弥刀ちゃん」
「これ食後じゃないと駄目なやつじゃん」
「なんかたべたい」
ばし、と薬をテーブルに置いた。
あああ、面倒だな。すぐ帰るつもりだったのに。
「作ってくれないの?」
「ああああ分かったよ、分かった。何がたべたいの?」
「冷たい物がいい。でも何も食べたくない」
「冷たい物…いや、食べたくないは無しで」
「ちなみに冷蔵庫、何もないからね」
「お前は何を食べて生きているんだ」
「最近作ってないだけ」
あたしはとりあえず神谷の所に行った。
電気が眩しいのか、腕で目元を覆っている。
「神谷、ベッドがある所はどこ?」
「…あっち。言っとくけど、僕動く気無いからね、…っ?!」
あたしは神谷の膝下と、上体を支えて、持ち上げた。
案外簡単に持ち上がって、自分でもちょっとびっくりした。
「な、」
「神谷って軽いね」
よいしょ、と抱き直した。
神谷が驚愕の目であたしを見上げている。
こう言う従順なのは悪くない。
「いいよ、自分で歩く」
「動けないんだろ?いい、神谷軽いし」
所謂“お姫様抱っこ”をしたまま、ベッドがある部屋に神谷を運んだ。
終始神谷はいつもの笑顔を浮かべる事ができず、固まっていた。