落雁

ベッドに神谷を乗せる。

「大人しくしてろよ」

すると神谷は、今度は本気で笑い始めた。

「ふ、はははは…やばい、おかしい…」
「何を笑ってるんだ」
「本当、変わってるよね…、普通、自分よりでかい男を抱き抱える女の子なんて居る…??」

神谷の笑いは止まらない。

「あー、初めての体験させてもらったよ、お姫様抱っこ」
「よかったな」
「どうなってるの、その体…」
「訓練の賜物だ」

また神谷の笑いを誘ってしまった。

「ほんと逞しいよね、弥刀ちゃんは」
「女にお姫様抱っこされたのがそんなに屈辱か」
「いやいや、寧ろいい経験。今度お返ししてあげる」

その言葉を無視して、あたしはキッチンに消えた。

何も食べたくなくても、林檎のすり下ろしくらいは食べられるだろう。
キッチンに立って、すり下ろし器を探す。
が、まな板と包丁しか無いキッチンに驚愕した。
男のキッチンって、こんなものなんだろうか。

仕方がないから、すり下ろす手段は諦める。
小さく切ってやれば食べるだろう。あたしは林檎を2つを手に取った。


切った林檎を皿に乗せて、それを神谷の所に持って行く。

「神谷、起きてる?」

暗い部屋で、神谷がベッドの上で寝返りを打ったのが分かる。


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