落雁
「食べさせてくれるとか、そう言うお約束な感じは無いの?」
「無いな、起きろ」
神谷の腕が伸びてきて、あたしの手首を掴む。
「はい弥刀ちゃん、それを手にとって」
「手掴み?」
「うん」
林檎を1つ手に取る。
それを見ると、神谷はあたしの手を自分の方に引き寄せた。
「う、わっ!!」
指先に熱くて柔らかい物があたる。
唇の振動が直に伝わった。
「な、…」
「冷たくて美味しい」
あたしの手首を掴んだまま、神谷はあたしを見上げた。
「自分で食べろよ!!」
「いいじゃん。食べさせて?」
艶っぽい上目遣いであたしを見た。
こいつはそこらの女より妖艶じゃないのか。
あたしはフォークに持ち直して、林檎をさす。
「弥刀ちゃんが珍しく優しい」
「黙れ」
それを神谷の口元に運ぶと、素直に食べた。
うん。こう言うのは悪くないかも。
「弥刀ちゃんってさ、門限とかは大丈夫なの」
林檎を咀嚼しながら、神谷はそう聞いた。
ふと時計を見ようとしたが、時計と言う物は見当たらなかった。