落雁

「お前の家は、本当必要最低限だな」
「それほどでも」
「褒めてない」

制服の胸ポケットに入れていた携帯を見る。
そんなに時間は経っていない。

いつもなら、まだ部活をやっている時間帯だ。

「まぁ、大丈夫かな」

携帯をしまって、自分も手掴みで林檎をつまんで食べた。

「まぁ、はしたない」

そうふざけて言う神谷の口に林檎を押し込んだ。

甘いのと酸っぱいのが口の中で広がる。
ほっぺの辺りがきゅっとした。


「弥刀ちゃん、ごちそうさま」
「もういいの?」
「うん。お腹空いてないし」

あたしは机に皿を置いて、代わりに水の入ったコップと薬を手に取った。

「神谷、薬。これくらいは自分で飲めよ」
「分かってるよ」

ゆっくりと、神谷は体を起こした。
だるそうに壁に背中を預ける。

あたしから薬とコップを受け取り、それを口に含んだ。


水を飲み干して、はぁと溜め息をつく。

「…疲れた」
「だろうな」

空になったコップを受け取って、机に置く。
あたしは立ち上がった。
まぁ、これで看病と言う任務は達成したであろう。

< 52 / 259 >

この作品をシェア

pagetop