落雁
「しっかし、こっちの方はいいとして、神谷って一体何者なんだ?ボクシング経験者ではなさそうだし。格闘技とかやってたのかな」
「え?!ボクシング経験者じゃないの?!」
「なに、弥刀見てなかったの?だってあいつ、グローブの付け方さえ知らない初心者なんだぞ。教えたらあっという間に上達したけど」
あたしはてっきり、ボクシングをやっていたのかと。
だからごっつ達に勝つことが出来たんだと思っていた。
「じゃあ、何でだろう…」
「カタチも変だったしな。だけど、機敏で機敏で…。目が追いつかないんだよなぁ」
あれには参った、とふざけてごっつが手を上げる。
「そうだ、ごっつ。あたしもランニングするよ。着替えてくるから。外周だよね?」
「おう、外周。じゃあ、俺達適当に走ってるから」
「オッケー」
ごっつはあたしに背を向けて、走り去ってしまう。
そうか。司は正真正銘の初心者だったのか。
なのに、何でボクシング部に太刀打ちできたんだろう。
空手か何か、やってたのかな。似てないこともないし。
あたしはトイレの個室に入って、鞄にいつも入っているジャージに着替えた。
髪をまとめて、汗をかいてもばっちりだ。
急いで外に出ると、丁度昇降口を走って通過する1人の部員に会った。みっきー君だ。
本名、フルハシミキヤ君。みんなからみっきーと呼ばれているので、あたしもみっきーと呼んでいる。ちなみに同じ学年。
「あ、みとっち。今日はここなんだね」
「冬の剣道も柔道もきついからね。今日はボクシング部だよ」
「ほんと、活発だよねー」
のんびりとみっきーは呟いた。
そう言うみっきーだって、汗だらけで頑張っているじゃないか。
そう言おうとして、あたしは口を閉じた。