落雁

「悔しいな、あんなさぼりーぬに負けたとは」
「マコト先輩も秒速だったんですか?」

は、と気付く。ごっつにさっき注意するように言われたばかりじゃないか。
マコト先輩はプライドが高いのに。(悪い意味で無く、意識が強いということで!)

案の定、マコト先輩は不機嫌そうに顔を歪めた。

「…まぁ、な。秒速だったな」

あれ。意外にも素直だったな。

「あいつはボクシングの形としてはまったくだが、コツを知っているような気がするんだ」
「へぇ、コツを」
「俺はあいつを見下していたんだ。初心者だからって。違う!それじゃ駄目なんだ。これから闘う相手を見た目で判断するなんて、スポーツマンとして失格だし、いつまでたっても弱いままだ。これは俺が弱かったせいで」
「あ、はい」

これからどんどん喋り始めそうなマコト先輩を、追い抜かした。
体力はあるけど、あたしよりは足が速くないマコト先輩は、振り返ったら見えなくなった。

ごっつが言ったとおり、マコト先輩は深くショックを受けていたけど、なんだかあたしが思っていたような感じじゃなかった。
司を責めているんじゃなくて、弱い自分が…系だ。よく分からないけど。

あれ、案外あたしが思っていたより、司の入部はボクシング部の前進に大きく携わっているんじゃないか。

心配してた時間は、無駄だったな。

高校生にもなって、負けたくらいでくよくよしている男は居ないか。


目の前に居たボクシング部の誰かを追い抜かす。
追い抜かし際に顔を見てみたら、ぎょっとした。
大の男がくよくよしていた。

「…斉藤先輩」
「あぁ、俺はなんて弱いんだ…」


その後、顔面蒼白で走り続けている斉藤先輩を慰めながら、外周を終えたのは言うまでもない。


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