今昔狐物語
「ふふ…羨むが良い。水真馳、そなたも多くの雌狐と浮き名ばかり流さず、愛しい一匹を早う見つけや」
「そうですね。頑張りますよ」
姉の忠告に素直に頷き、苦笑する。
「遊真も伴侶を持ったと聞きましたし…。私もそろそろ本気を出さなければ」
阿多羅が茶を掻き回すシャッシャッという音が耳に心地好い。
「そなたの嫁取りが先か、我が子をなすのが先か…」
この嵐華の独り言に阿多羅は茶筅(チャセン)を取り落としそうになった。
「姉上の方が早そうです」
「そうか?ならば、我らの子が生まれたら飛牙と遊真も呼んで宴を開こうぞ」
「いいですね。楽しみにしています」
クスクスと笑む水真馳から視線を外し、嵐華は障子の隙間から見える庭をぼんやりと眺めた。
「子供か…。そういえば、弥一としのは元気かのう…?」
「誰です?」
「人の子じゃ。素直で礼儀正しい、良い子達よ」