今昔狐物語

「何!?まことかえ!?」

「はい。大規模な火災でもあったのか、村全体が焼けていました。火はすでに鎮火していましたが…」

弟の思わぬ目撃情報に、嵐華の顔からサーッと血の気が失せた。

「麓の村には、弥一やしのもおる…。阿多羅!行くぞ!ついて参れ!」

「嵐華様!?」

屋敷から飛び出した気高い黒狐は、本来の獣姿に戻り、風のように走り出した。






 村の焼け跡をぐるりと見回して嵐華は叫びそうになった。

「あ…あぁ…」

この麓の村には、よく狐の姿で訪れていた。

村人達を遠くから、たまに近くから眺めては時の流れを感じていた。

「や、いち…!しの…!」

生きている人間が見当たらない。

嵐華は人の姿になり、村の中心へと向かった。


 
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