今昔狐物語
絶叫と共にこぼれ落ちる涙が、優しい雨となり二人の子供に降り注ぐ。
「姉上…」
「嵐華様…」
見ていられなかったのか、水真馳は目を閉じ俯いたが、阿多羅はじっと主人から目をそらさなかった。
「…………阿多羅」
しばらくして、小さな声が従者を呼んだ。
「はい。嵐華様」
彼の返事に嵐華が顔を上げる。
今まで死を見つめていた黒狐の金の瞳が、日の光に煌めいた。
「絶対に子を産むぞっ。女児と男児どちらもじゃ!」
悲しみの涙に反して、彼女の瞳は生の輝きを放っていた。
そう。
この強い輝きに、阿多羅は惚れたのだ。
決して闇に侵されぬ、金色の瞳。
阿多羅は心の高ぶりを覚えながら、誓うように短く言った。
「…はいっ、嵐華様」