今昔狐物語

(姐さんもよくこんな客の相手、我慢できるよね。まあ、繁盛してる商家の旦那で、金払いは良いからなぁ…)

そんなことを考えながら、表の顔に笑みをはりつける。


蛍がこの男から解放されたのは、それから数十分後のことだった。




「では、わっちはこれで」

蛍の姐さんである夕霧がやっと登場し、彼女は静かに席を外した。


(疲れた~。やっと部屋から出られたよ…)

そんな大変なことをしたわけでもないのに、緊張の糸が切れたためか優れない表情で廊下を歩く。

先程までの笑顔はどこへやら。

下がって少し休もうかなと思った時、何やら人だかりができている部屋の横を通った。


「あの方よ、ほら!すごく魅力的!!」

「美しい方よね。笑顔がとくに…!」

「優男ね~。あ~、抱かれてみたい!」


襖を細く開けて部屋の様子をうかがいながら、狂喜の声をあげる遊女達。


 
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