今昔狐物語
数年後。
ちよの故郷から遠く離れた地。
人が寄り付かない森の奥につくった粗末な小屋で、彼らは日々を過ごしている。
「母上~!抱っこ!」
「うふふ、甘えん坊だね。玖羅加(クラカ)」
家の中で母親に無邪気にじゃれる少年。
彼は狐と人間の婚姻によって生まれた子供だ。
ゆえに見た目は少しばかり異形であった。
飛牙に似て金色の瞳。
人間よりも尖った爪、歯、耳。
そんな我が子をちよは愛しげに抱き上げる。
「玖羅加、邪魔だ。ちよは俺に抱っこされるのであって、する側ではない」
「父上は心狭すぎだよ!僕だって母上と…!」
「生意気な息子だな?父に逆らうか」
ちよを取り合って一日に何度も勃発する父と子の口喧嘩。
「ちょっと!玖羅加、飛牙、喧嘩しないで」
「ふん!」
不機嫌そうに鼻を鳴らすと、飛牙は息子を抱いているちよを軽々と抱き上げた。
そして外に出ると、近くの大木にひょいと登った。