今昔狐物語

今の時期は初夏。

日中はやや暑いが、大木の枝の上は涼しい風が通り過ぎるので気持ちが良い。


「今年の夏も暑くなりそうね」

「ねえ、母上。また川で水遊びしたい」

「そうね。もう少し暑くなったらしましょうか」

「わーい!」

「ふふふっ」


ちよの屈託のない笑みを見て、飛牙はふと問い掛けた。


「ちよ」

「何?」

「幸せか?」


この時、ちよは飛牙との出会いを思い出した。


人喰い、兄の死、家族との別れ。


色々と辛いことはあったけれど、ちよは飛牙を選んだのだ。

後悔なんてない。

答えは決まっていた。



「ええ。幸せよ」





 
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