今昔狐物語
世の中が乱れに乱れた戦国の時代。
その乱れから隔離されたかのような山奥に、小さな村があった。
「ゆきちゃん、こっち手伝ってちょうだい」
「うん」
そんな村で暮らす娘、ゆき。
彼女は今、母親と共に夕飯の支度をしている。
「もうすぐ帰ってくるかしらね?お父さんと遊真(アスマ)さん」
ゆきの母親が独り言のように呟いた。
「そうだね」
ゆきは父親と夫のことを思い、口元を綻ばせた。
(お父さんと遊真、少しは仲良くなったかな?)
ゆきの父親と彼女の夫の遊真はあまり仲が良くない。
それはそうだろう。
なんせ、ふらっとこの村にやって来た、どこの誰ともわからない遊真が突然、大事な一人娘を嫁に欲しいと言ってきたのだ。
父親が遊真を警戒するのは当然であった。