今昔狐物語
「まずは首を落としちまえ。皮を剥ぐのはそれからだぜ」
痛みに支配される意識の中で遊真は人間達の声を聞いた。
(俺も…これまで、か)
人は狐の敵ではない。
多少なりとも彼らに害をなしても、殺生だけはしない。
自分の生死を左右する土壇場になっても、遊真は社の白狐である誇りを忘れはしなかった。
社に住まう狐は善狐。
人を殺しはしない。
決して殺してはならない。
だがしかし。
だが、しかし…!
(助けたい…!ゆき…野盗どもに捕まって、無事で済むはずがない。ゆき!嗚呼、いにしえより神と崇められる白狐よ!お前は、なぜこんなにも無力なんだ…?)
――俺は、愛する女一人、守れないのか…?
思考は現実を引き止めてはくれない。
遊真の首に無惨にも刃が突き立てられようとしていた。
その時。
「あすまぁあー!!!!」
ザクッ
遊真の上に覆いかぶさった影。
「ゆ、き…?」
遊真の代わりに刃を受けた華奢な身体。
彼女の首から赤い赤い血が滴り落ちる。
それは遊真の美しい白い体毛に紅の染みをつくった。