今昔狐物語
全てが燃えつきた時、遊真は人の姿になり、冷たくなるゆきを抱きしめていた。
「ゆき…」
もう、彼女は助からないだろう。
彼は直感でそう確信した。
遊真も脇腹を刺され重傷だが、死に至る傷ではない。
腐っても神の端くれ。
直接首を落とされでもしない限り、生きながらえてしまう。
「なぜ、俺を助けた…?」
彼は悲痛な表情で愛しい娘を見つめた。
「俺は、人ではない。狐なんだ。それを伝えたくて…俺は…」
好き合って、祝言をあげて、子まで孕んでから真実を伝えようと決めていた。
そんな己を狡い狐だと罵倒しつつ、それでも、とうとうこの日まで言えなかった。
――嫌われるのが恐かった。
「わ、って…た」
「ゆき?」
ゆきの唇が微かに震える。
(薄々、わかってはいたの…。貴方が、私達とは…違うって)
ふらりとやって来た、人間離れした容姿の美しい青年。
(でも、どこか…懐かしく感じた…)
それは子供の頃、出会っていたから。
「あな、たが…な…もの、でも…」
貴方が何者でも、構わない。
「だい、すき…あ、す…ま――」
最期の最期に、ゆきは綺麗に微笑んだ。
とても綺麗に、微笑んでみせた。
恐いのか、辛いのか、痛いのか、悲しいのか…今となっては、もうわからない涙を零しながら。