今昔狐物語

「ゆき…?ゆきっ…!」

事切れた妻の身体をひしと抱きしめる。


「ゆき!俺は…君のことが、ずっと…好きで…!」

今だから言葉にできる。

積年の想い。


「君が幼子の頃からずっと、見守っていたんだ。あの社で…。いつしか俺は、土地神という己の責務さえ忘れるほど…」



――君に恋した



だから近づいた。

もっと共にいたくて。

もっと傍にいたくて。


美しい金色の瞳が曇るほど、大粒の涙が零れ落ち、ゆきの頬にぽたぽたと降り注ぐ。


「俺は、ずっと君を騙していたんだ…」


辛かった。

けれど、幸せで。


「俺は卑怯者だ…。だが、誰よりも君を愛している」



――永久に愛する自信がある




「ゆき…大好きだ…。だから」


涙に濡れた遊真の金色の瞳が、狂気的に揺らめいた。


「だから、君を…君をどこにもやりたくない」

亡骸となってしまっても、土になど還したくない。

墓などつくるものか。

ゆきは、永久に自分と…。


「これからも、俺と共に歩んでくれるな…?」


ゆきの美しい死に顔を見つめ、遊真は最後の口づけを送った。


否、最後というのは違うかもしれない。


「骨になっても、愛しているよ」


そして、彼は人間には到底真似できない、禁忌の行為をやってのけた。



 
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