今昔狐物語
目も耳も鼻も頬も唇も、髪も首も胸も腕も指先も、腹も足も臓腑でさえも。
ただ、ただ――。
「愛おしい…」
口の周りを娘の血で染めながら、彼は穏やかに微笑む。
「ゆきの墓は、我が身体…。俺の身体がゆきの…」
静かな声で嬉しそうに肉片を喰らう白狐。
狂ってなどいない。
狂ってなどいないのだ。
彼にとってはこれが最上級の愛の証なのだから。
骨以外の全てを自分の腹に葬った遊真は、小さな骨壺に砕いたゆきの骨を納めた。
けれど、頭蓋骨だけは砕かずにとっておいた。
「ゆき…」
綺麗な形の頭蓋骨を優しく撫でる。
いずれは、こうする予定だった。
いつか、ゆきが年老いて死んだら、彼女の全てを喰らおうと。
「俺は何百年も生きるから、いずれは…と覚悟はしていたが…」
こんなに早いとは想像もしなかった。
しかし、この戦乱の世では、これくらいが当たり前なのかもしれない。
「ゆき、この先何百年生きようとも、俺が愛するのは…君だけだ」
「私もです」と答えるゆきの幻影が見えた気がした。
悲しい白狐は、もう二度と応えることのない頭蓋骨に口づけた。
何度も、何度も――。