今昔狐物語
夜の闇に紛れて、小石が擦れ合うようなカラカラとした音が近づいてくる。
山奥の谷間に座り、穏やかな月明かりを眺めていた狐の阿多羅(アタラ)は耳をピクリと動かした。
注意深く、その微かな音に聞き耳を立てる。
自分に害をなすモノか、否か。
彼は背後まで迫った音の正体を確かめるべく勢いよく振り返った。
そこには――。
「お前は…遊真!」
「久しいな、阿多羅」
親友の白狐、遊真がいた。
「数百年ぶりか?遊真」
「そうだな。君はなぜ一人でここに?嵐華(ランカ)の傍にいなくていいのか?」
嵐華とは阿多羅が仕える雌の黒狐で、遊真の姉だ。
「息抜きの時間を下さったんだ。すぐ戻るつもりだ。お前こそ、こんな辺境に何用だ?風の噂では、お前が祝言をあげたと聞いたが」
「飛牙か…」
遊真は情報通の兄のことを思い出し、些かムッとした。
きっとニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながらペラペラ喋ったに違いない。
「細君を娶って幸せの絶頂期だろうに」
「そう。その妻を、君にも紹介しようと思ってな」
そう言うと、遊真は大切に抱えていた髑髏を親友に見せた。
「俺の妻、ゆきだ」