今昔狐物語
まだ闇が多くを支配していた頃。
山の木々が風にざわめけば、人々は身体をビクリと震わせて家路を急いだ。
怪しきもの達の時間。
逢魔が刻が訪れる。
「兄ちゃん、遅くなっちゃったよ」
「大丈夫だ。もうすぐ村につくからな!」
二人の子供が山道を早足で進む。
十三歳の少年、弥一(ヤイチ)は妹のしのを安心させるように手を握りながら声を出す。
夕暮れの薄暗い山道では、明るい声を発していた方が幾分か不安も和らぐものだ。
彼らは徐々に濃さを増す闇を恐れ、急いで村へと向かう。
と、その時。
「きゃっ!」
しのがつまずき、転んだ。
「いたっ…」
「平気か!?怪我は!?」
見ると、右のひざ小僧から血がにじんでいた。