今昔狐物語
「ふえ…兄ちゃん…」
「待ってろ、今止血を…」
弥一が自分の着物の袖を引きちぎろうとした時だった。
――血の臭いだ…
低い唸り声が聞こえた。
――血の臭いがするぞ…!
「ひっ!!」
弥一は身を固くし、しのは腰を抜かした。
二人の目の前に一匹の鬼が現れたのだ。
鬼は裸で、皮膚の色は黒ずんでいた。
頭部には二本の角。
大きな瞳で子供達を見つめ、二足歩行で迫ってくる。
――血ぃいいいいい!!!!!!!
血を好むのか、しの目掛けて走る異形のモノ。
「しの!!」
恐怖で動けない妹を弥一が守るように抱きしめた、その瞬間――。
血が舞った。
「囂(カマビス)しい鬼よの」
静かでいて凛とした声が響いた。