今昔狐物語

女性のものだ。

弥一は状況を把握しようと顔を上げた。


黒くて長い髪が視界に映る。

上等な着物を身にまとった麗しい女性。

子供ながらに弥一は見惚れてしまった。

彼女の横顔は鋭い美しさを秘めていた。


「童(ワラワ)よ、大事ないか?」

人ではないことを示唆する彼女の金色の瞳が、弥一を捉える。

「は、はい…」

緊張でどもりながら返事をした後、視界に入った鬼の生首。

それは地面に無様に転がっていた。

「案ずるな。鬼は死んだ」

女性は弥一の視線に気づき、難は去ったことを教えた。

「あの、どこぞのお方か存じませんが、お助け下さりありがとうございました!」

弥一の考えが正しければ、この女性は自分達を鬼から守ってくれたのだ。

そんな平伏する弥一に、彼女は言った。


 
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