今昔狐物語
「礼儀のある童じゃ。気に入った。我が屋敷に来るが良い」
「えっ!?」
「そなたの連れは傷を負っている。特別に手当てをしてやろう。ついて参れ」
弥一は呆然としている妹を背におぶり、この不思議な女性の後に従った。
辺りはすでに暗闇で包まれていた。
そんな中を女性は迷うことなく、ずいずいと進んでいく。
しばらくして、彼らは山の中の立派な屋敷に辿り着いた。
「ここが…」
農村の子供である弥一としのは目を見張った。
「入りや」
促されて中に足を踏み入れると、茶色い髪の男性が慌てた様子で出迎えにやって来た。
「嵐華(ランカ)様!!どちらにいらしたのですか!?心配したのですよ!?」
「すまぬな阿多羅(アタラ)。客人じゃ。お小言は後にしいや」
「客人?これは…人の子ではないですか」
阿多羅と呼ばれた切れ長の目の男が、驚きを声音に含ませた。
「怪我をしている娘子を診ておやり」
「かしこまりました」
綺麗に一礼する阿多羅。
その所作に好感を持った弥一は、しのを背から降ろし手当てを阿多羅に任せた。