今昔狐物語
「童よ、そなたはこっちじゃ」
弥一は金の瞳の女性、嵐華に別室へと導かれた。
「あの娘子はそなたの妹かえ?」
「はい。しのと言います。俺は弥一です」
「しのに弥一か…。のう、弥一。しのの手当てはすぐに終わるじゃろうが、表はもう暗い。今宵はここに泊まると良いぞ」
嵐華に対する先程の阿多羅の態度や、このような発言からして、彼女はこの屋敷の女主人なのだろう。
ありがたい申し出に弥一は「はい」と言いかけたが、途中で言葉を飲み込んだ。
「でも…」
「何じゃ?如何した?」
俯いて何かを考える弥一。
「言うてみよ、弥一」
優しくかけられた声に、弥一は言葉を探しながら理由を述べた。
「早く帰って、母ちゃんに……薬草をあげたいんです」