今昔狐物語

「童よ、そなたはこっちじゃ」

弥一は金の瞳の女性、嵐華に別室へと導かれた。


「あの娘子はそなたの妹かえ?」

「はい。しのと言います。俺は弥一です」

「しのに弥一か…。のう、弥一。しのの手当てはすぐに終わるじゃろうが、表はもう暗い。今宵はここに泊まると良いぞ」

嵐華に対する先程の阿多羅の態度や、このような発言からして、彼女はこの屋敷の女主人なのだろう。

ありがたい申し出に弥一は「はい」と言いかけたが、途中で言葉を飲み込んだ。

「でも…」

「何じゃ?如何した?」

俯いて何かを考える弥一。

「言うてみよ、弥一」


優しくかけられた声に、弥一は言葉を探しながら理由を述べた。

「早く帰って、母ちゃんに……薬草をあげたいんです」


 
< 89 / 277 >

この作品をシェア

pagetop