今昔狐物語
慌て始めた弥一を面白そうに眺めながら嵐華が笑う。
「良い良い。持ってゆけ。遠慮ばかりしておると世の中、損をするぞ?」
「……貴女様は、なぜ俺達に施しを…?」
弥一の疑問に彼女はまた笑った。
「ふふっ、単なる気まぐれじゃ。おや、しのの手当てが終わったようじゃな」
少し顔色が良くなったしのが阿多羅と共に部屋へ入ってきた。
「さて、今宵はもう表へ出るでないぞ。ここでゆるりと休まれよ」
有無を言わさぬ物言いに気圧される。
とうとうその日、二人が家に帰ることはなかった。
「全く…人を泊めるなど、嵐華様はどういう神経しているんですか!ご自分のお立場をもっと理解し…」
「囂しいわ阿多羅。弥一としのが寝ているのだぞ。静かにしいや」
子供二人を寝かせた隣の部屋で阿多羅は茶をたて、嵐華はそれを茶菓子と一緒に味わっていた。