今昔狐物語

父親は初めこそ訝しんでいたものの、しのの傷が手当てされていることや、弥一の傍らに置かれていた小壺を発見して納得せざるを得なかった。

小壺の中には薬草がたっぷり入っていたのである。



「その方はきっと、この山のお狐様よ」

薬が効き、体力を取り戻した母親が笑顔で語った。

「お狐様?」

「そう。昔から、この山には偉い神様がいるって言われているの。母ちゃんはお狐様だって聞いたわ」

「じゃあ、あの人は狐だったんだ…」

弥一はあの鋭くも美しい横顔を思い出しながら呟いた。


「また会いたいな…」

会って、薬草の礼が言いたい。


「人が好きな神様だって噂だからね。弥一が会いたいと強く願えば、またいずれ会えるかもしれないわね」

「うん!」

元気に笑顔で頷くと、父親の仕事を手伝うべく弥一は畑へと駆けて行った。







 
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