今昔狐物語
阿多羅が人間の子供達を村にこっそり帰してから数日。
阿多羅の主、黒狐の嵐華は非常にご機嫌だった。
「それでの、阿多羅は我をこう…後ろから優しく包み込み、抱き寄せては耳を舐――」
「すみません、阿多羅。おかわり下さい」
ズズズと音を立てて茶を飲み干した白狐の水真馳(ミマチ)。
傍で控えていた阿多羅は、自分との惚気話を熱く語る嵐華の言葉に頬を染めながら、追加の茶をたて始めた。
「何じゃ水真馳。話の腰を折るでない」
「もうこれ以上詳しい話は勘弁ですよ、姉上」
緩く波打つ白い長髪を手ではらいつつ、弟の水真馳は溜息をついた。
「ようするに姉上と阿多羅は幸せ絶頂期、ということでしょう?うらやましい限りです」