花とミツバチ



「……」



そんなにぎわうオフィスを出て、一人歩く廊下。ひと気のない細い廊下には、窓から太陽の光が差し込む。



「藤田」



すると、不意に呼び止めるのは彼の声。



「…課長」

「明日の飲み会行くのか?」

「はい、一応。仕事が終わればの話ですけど」

「はは、そうだな。俺も」



後ろから近付いてそう笑う梶原課長に、今日もシワひとつない白いワイシャツは太陽の光に眩しさを増す。



「あ…オフィスに運んでほしい書類があるんだ。頼んでもいいか?」

「?はい」

「じゃあ、こっちにおいで」

「……」






『こっちにおいで』





甘く囁くような一言に、開けられた薄暗い会議室。そのことひとつで、書類なんてものはただの口実だと悟る。

わかっていながら、足はその部屋へ踏み込んだ。



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