花とミツバチ
「……」
そんな私の考えを察するかのように、ずいっと近づけられる顔。
「…藤田」
小さく名前を呼び、テーブルの下で見えないように私の手を握る。
「…、」
その手の温もりに、一瞬心はグラリと揺れる。
けれど、触れるその左手の薬指にある固い指輪の感触。そのことひとつが私を一気に冷静にさせた。
(…どんな気持ちで、この指輪をしてるんだろう)
同じ指輪をはめている、彼の奥さんはどんな気持ちでいるのだろう。
気付いたんだ。最近彼といると、罪悪感ばかり感じている自分。
好きなのに、二人きりでは笑顔もこぼせない。
嬉しいのに愛しいのに、その気持ちの後ろには必ず重いものがついてくる。
彼を好きでいる自分のことが嫌で、嫌で、嫌で、一途に注ぐ愛情の愛おしさを知ってしまった私にはその手を掴めないかもしれないこと。