花とミツバチ



浮気相手と本妻が鉢合わせしても、この反応。

きっと私がこんな所でバラすなんて、思ってもいないんだろう。





『藤田はそういう子じゃないって、分かってるから』





それは信頼か、見くびりか



(…腹立つ)



その余裕が、ムカつく。悔しい。

今ここで大声で言ってやりたい。この人私と浮気してますよって、私のこと抱きましたって、全部言ってやりたい。

なのに、声は出ない。





「取引先からの帰りです」



ふと現実に引き戻す声。それに振り向けばそこには、しゃがむ形から立ち上がりさり気なく私の手を掴む彼がいた。



「取引先?あぁ、さっき電話で言ってた大福商事か。どうだった?」

「藤田先輩のおかげで大量発注。新商品を全店にいつもの3倍仕入れしてくれました」

「3倍!?すごいなー…藤田もお疲れ」

「…、」



いつものように向けられる優しい笑顔。けど、今はそれすら向き合えない。



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