花とミツバチ



「…課長は、私が始めての浮気相手じゃないですよね」

「何、いきなり」



私は自然な会話の流れとして投げかけたのだけれど、彼には唐突な問いに感じたのだろう。
はは、と一度笑うものの、真面目な顔の私に折れたように髪をかく。



「…察しの通り、初めてではないよ。会社の中では初めてだけど」

「…今まで浮気がバレたことって、ありますか?」

「んー…まぁ、結婚する前にな。けど彼女は責めなかったよ」

「?」

「俺の前では見て見ぬふりして笑ってた。…一人ではきっと、泣いてたんだろうけど」

「……」

「思えばそんな彼女を困らせたり、泣いたりワガママを言ったりしてほしかったから繰り返すのかもな」



グラスの中の炭酸を見つめながら、こぼす言葉。それは、彼があの人を想う気持ち。



「…どうして、あの日私を誘ったんですか?」

「……」



続けて問う言葉に、その目はこちらを向いていつもの笑顔は消される。



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