花とミツバチ



「俺は帰るけど、藤田は泊まっていくといい」

「…いいんですか?」

「あぁ。でも明日も仕事だから、遅刻だけはしないようにな」

「……」



優しい声色で言いながら絶えない笑顔でシャツに袖を通すその人は、滅多に一緒に泊まってはくれない。

それも当然。会社の上司である彼…梶原課長には家庭があって、奥さんと子供がいる身。

そう自分はいわゆる愛人で、この関係はいわゆる不倫というもの。



人の物が欲しかったわけじゃない。欲しかった物が、人の物だっただけ。

それでも今まで精一杯抑えて、堪えてきた。…その我慢も、彼の誘い一つで一瞬にして消えてしまったけれど。



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