七都
 そのとき。ふわり、と頭から、布をかぶせられ、唐突に七都のまわりだけ雨が止んだ。

「どうしたの?」

 七都が見上げると、やさしい青い瞳が自分を見下ろしていた。金の髪をした異国の青年。七都は何が起こったのかわからずに、ただその涙に濡れた黒目がちな瞳を、ぱちくりとさせていた。

「道に迷った?」

 やさしく訊ねられて、七都は首を振る。

「……お姉ちゃんと、買い物に来たのに。いつまでたっても帰ってこないの……ここで待っててって言ったのに、もう日が暮れるのに、ずっとずっと何時間待っても、帰ってこない……」

 七都の言葉を聞いた青年の顔がかすかに曇った。

「どれくらい待っていたの?」

「わからない。でも来たのはお昼前だった」

「……」

 今はもう日没。都境のこのような場所では、何が起きても不思議ではない。不穏な事件を耳にすることも数多かった。

 青年は七都の荷物を拾うと、頭からかけた上着ごと、ひょいと唐突に七都の体を抱き上げた。

「きゃ……」

 七都はちいさく声を上げた。血の滲んだ足は泥にまみれていたけれど、彼はそんなことを気にする風もなく、着ていた服の袖で丁寧に七都の足をぬぐってくれた。

「家は近く?」

 七都が、ううん、と首を振った。

「家は二街の外の方……遠いの。道もわからない。優花いないから帰れない……」

 姉のことを思い出した七都の目に、また涙が浮かんだ。

「優花がいなかったらあたしひとりなのに……優花もいなくなっちゃった……」

 腕の中で泣き出した七都を上着にくるんで、青年は安心させるようにそっと、頭を撫でた。

「とりあえず暖かいところへ行こう、それからゆっくり考えよう」

 七都は服をつかんで泣きながら、こくんとうなずいた。

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