双華の香
心の準備
『お前、わたしと入れ替われ』
欄菊さんの言った言葉を理解するのに、かなりの時間がかかった
わたし達の間に、沈黙が流れる
「おい、聞いているのか」
「あ、はい……いえ…」
「はっきりしないな、どちらだ」
「どちらと言われても…その…」
わたしがもじもじしていると、痺れを切らしたのか欄菊さんは大きくため息を吐いた
「――風切(かざきり)っ!!」
そして誰かの名前を呼ぶと、近くの木陰から顔の下半分を布で覆った男の人が素早く出てきた
「っ!
いつからそこに…」
「始めからそこにいた
風切は、わたしの護衛だ」
風切りと呼ばれた人は欄菊さんのすぐ隣に膝をつく
まるで、忍のような動き
「…話は聞いていたな」
「はい」
「わたしはしばらく小春と入れ替わることにする
その間の小春の護衛を頼みたい」
「…私にですか」
「まさか。お前はわたしの専属だ
そうだな…」
欄菊さんはこちらをみて、微笑んだ
「小春の護衛は、暁(あかつき)に任せるとしよう」