双華の香





呼ばれた男は、わたしの後ろにただ座っているまま動かない





本当に、愛想の欠片もないやつだ





「…あなたも、旦那様に愛されていますよ」



「ふん、金が全てではない


それに、父上が愛しているのはわたしではなく…」




誰だ、とでも言いたげな顔に


そっと視線を庭に戻す






「…亡くなった母上は、よく言っていた


父上には心から愛している女がいると」






柔らかな風が流れる



わたしは僅かに目を細めた









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