双華の香




「その時のわたしは、それが母上だと思っていた


父上が母上を好きなことを、娘のわたしに聞かせているのだと」






しかし、と話を続ける





「幼きわたしにもわかるほど、話をする母の顔は悲しそうだった



わたしはその意味がずっと分からずにいた」






なぜ、自分は愛されていると知っているのに母上はいつも悲しそうなのか



心から愛されてるのではないのか







「………」



「その時のわたしは幼かった



その話の本当の意味が分かったのは、母上が亡くなってから数年後のことだ」







ある日、父上に頼まれ母上の部屋にある書を探していたときのこと




母上がよく読んでいた本をみつけ、その場で少し目を通してみたくなった




すると、どこかに挟まっていたのか一枚の紙がはらりと落ちた







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