双華の香






しん、と静けさだけが残る




風切は相変わらず黙ったままだ



こいつといる時の唯一の不満だな、この異常なまでの無口は





「―――――っ!」



「うわ…っ…!!」





そんな事を考えていた矢先、突然風切が立ち上がったと思えば



信じられない早さで、何かから庇うようにわたしに覆い被さった






「い…いったい何事だっ」



「…あいつですよ」






すぐさま身を離した風切が指さす方に目を向けると




少し離れた場所に生えている木に、人影がある





「あーあ、やっぱりばれちまったかぁー



…さすがっすね、風切さん」






この人を馬鹿にしたように間が抜けた喋り方

調子のいい声





「お前は…」




「―――殺すぞ…暁」






やたら低い声色に、そっと振り返ると



片手に小さな刃を掴んだ風切が、じっと相手を睨んでいた






< 33 / 36 >

この作品をシェア

pagetop