双華の香
しん、と静けさだけが残る
風切は相変わらず黙ったままだ
こいつといる時の唯一の不満だな、この異常なまでの無口は
「―――――っ!」
「うわ…っ…!!」
そんな事を考えていた矢先、突然風切が立ち上がったと思えば
信じられない早さで、何かから庇うようにわたしに覆い被さった
「い…いったい何事だっ」
「…あいつですよ」
すぐさま身を離した風切が指さす方に目を向けると
少し離れた場所に生えている木に、人影がある
「あーあ、やっぱりばれちまったかぁー
…さすがっすね、風切さん」
この人を馬鹿にしたように間が抜けた喋り方
調子のいい声
「お前は…」
「―――殺すぞ…暁」
やたら低い声色に、そっと振り返ると
片手に小さな刃を掴んだ風切が、じっと相手を睨んでいた