トリプルトラブル
 「聞いて驚くなよ。コーチと今度のコーチは君達と同じ双子なんだそうだ。だから君達のことが心配だったらしいよだよ。特にヒデ君はあの頃の自分とソツクリだと言っていた」

案の定、校長先生はコーチの秘密を暴露していた。


「あの頃の自分?」
秀樹には、その意味が判らなかった。


「彼もお調子者だったらしいよ。だから良くコーチに注意されてたそうだ。その時言われたそうだ。『基本はキャッチボールと遠投』だと」


「基本はキャッチボールと遠投!?」
秀樹は直樹の顔を見た。


「だからか?」


「だからそれを教えるためにコーチは……」
秀樹は感動に浸って、思わず泣き出しそうになっていた。




 「コーチはこんなことも言っていたな」

校長先生は、勿体ぶったように咳払いをした。


「私にはよう解らんのだが、ツーシーとか何だか言ってたな」


「それツーシームです。コーチに教えてもらいました」



「そうだった。確かツーシームだったな。それを君は更に進化させたそうだね。コーチは、あの球質ならプロでも通用すると言っていたよ」

校長先生の話に、秀樹は完全に目を潤ませていた。


ネットでツーシームの検索をしていた時に偶然見つけたSFB。

何のことやらちんぷんかんぷん。

だから気になって授業中に調べてしまったのだ。

そして、どうやらシンキングファーストボールではないかと判断したのだった。




 『何の目的で携帯を持ち込み禁止にしたのか解っているか? 授業中に遊ばせないためだよ。パソコンは携帯電話じゃないけど、これは許されことではないよ』
担任のお目玉を食らいながらも秀樹は嬉しくて仕方なかった日を思い出していた。




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