トリプルトラブル
 『姉と正樹さん、インターハイの地区予選会場で出会ったの』

美紀にはそう説明した。
自分から誘ったなんて言えなかったのだ。


『正樹さんは先輩の応援に来ていたの。学校は違っても同じ町の仲間として意気投合して』

美紀にはそう言いながら沙耶は苦笑していた。
自分から頼んだなんて言えるはずがなかった。

それは、本当は正樹を愛していると告白するに等しい行為だったから。




 まさかのハプニング。
そんな光景だった。

姉の、珠希の視線の先に正樹がいた。
自分の恋しい正樹を見つめていた。

姉が正樹を奪った瞬間だった。


悪夢だと思った。

悪い冗談だと思った。


でもそれで済まなかった。


二人は出逢いから二年半を経て結婚したのだった。


大好きな軟式テニスと正樹をゲットするために、珠希が選んだ道。

それが、中学での体育教師だったのだ。




 市の体育館の中に無料ジムがあった。

一度器具の取り扱い講習を受けるとカードが発行され、何時でも自由に使用出来た。


二人は早速一緒に講習会に出席後、トレーニングを開始した。


柔軟体操。
トレーニングマシン。
ランニングマシン。
それらを一緒に行う。
苦痛であるはずの強化メニューを、楽しみの道具に変える二人。


二人は二人で励まし合うことでお互いの体を鍛えようとしていたのだった。


この施設にあるのは、レッグプレスマシンやラットマシンなどの筋肉強化種。
ドレッドミルやエアロバイクのような有酸素運動系種。
休んだり柔軟体操なども出来るマットも常設されていた。

至れり尽くせりの品揃えで無料なのだ。
珠希はそれが嬉しくてならなかった。


正樹はマットの上で、受け身の練習を欠かせなかった。


「プロレスやるには柔道が一番よ。でも寝技足技の前に受け身をしっかり身に付けなくちゃね」

珠希の言葉を何でも受け入れ、それ故に成長し続けた正樹。

やはり正樹にとて珠希は勝利の女神だったのだ。

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