トリプルトラブル
 「苦しいんだよ、美紀を見るのが。傍にいられると珠希を感じて」

正樹は激しくテーブルを叩いた。
その手を沙耶は止めた。


「自分を傷付けてどうするの? お姉さんが悲しい思いをするでしょう? ねえ、思い出してみて、自分が何故生かされたのかを」


「生かされた!?」

その言葉に沙耶は頷いた。


「お義兄さんは、お姉さんと結城智恵さんによって生かされたたの。お義兄さんに生きていてもらいたかったからよ」




 「そうか、俺はあの時珠希と結城智恵さんによって生かされたのか。俺はさ迷っていた。生死の狭間で漂っていた。傍に珠希がいなくて探し回っていた。その時に見た気がする。誰かが珠希の霊に寄り添っていたのを。追いかけたけど見失って目覚めたんだ」


「あっ、もしかしたらその時かも知れない。美紀ちゃん突然意識不明になって倒れていたわ」


「その時に美紀に憑依したのかな?」


「解らないけど、きっとそうね。結城智恵さんが迎えに行ったのよ。二人で見守ろうって……。ほらやっぱりそうでしょう? やっぱり美紀ちゃんの中には、姉と結城智恵さんが居るのよ」

沙耶はそう言いながら、正樹の手を強く握った。


「でも……だからって、俺でいいはずがない」

それでも正樹は決意出来ずにいた。

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